朝日に顔を照らされて、まぶしさに思わず目をつむる。
光を手で遮りながらそっと瞼を開くと、そこは斜面に木々の生い茂る真ん中に、ぽっかりとできた洞だった。記憶をまさぐって、ああ、落雷で倒れた木に押されて、斜面を転がり落ちたのだと思い出す。妹はどうだろう、あんなに強く握っていたのに手を離してしまった。責任感が罪悪感に変化して胸を押しつぶしそうになる。
「……! いたぞ、あれじゃないか?」
「ああ、あれがイェーガーの……!」
「あの高さから落ちて無事だなんて、奇跡だな……!」
どこか遠くで聞こえた声が、自分を指したものだと気づくのに数秒かかった。
自分のことだと確信できたのは、聞きなれた幼い声が響いたから。
「お姉ちゃん、だいじょうぶ……⁉」
すぐそばに近寄ってきて、頬に手を当てて顔を覗き込む、可愛い妹。
ああ、なんだろう、こんなことってあるのかしら。
こんなはずじゃなかったのに、こんなにしあわせなことがあっていいのかしら。
「大丈夫よ、アンネ」
これは、いずれ戦争の魔女と呼ばれることになる少女が、人生でたった一度だけ、神様を信じることができた奇跡。
魔法使いによる四重奏 了