「ママ! ワタシ、お料理をしてみたいわ!」
かわいい末娘のお願いです。ママは喜んで真新しいエプロンを着せて、モナと夕ごはんの支度をすることにしました。
今夜は、鮭のムニエルとほうれん草のサラダ、パパの晩酌用にあさりの酒蒸しも作ります。
モナの家は、パパのおじいちゃまとおばあちゃま、ママのおばあちゃまと、パパとママとお姉ちゃんとお兄ちゃんと2番目のお姉ちゃんと3番目のお姉ちゃんとモナの10人です。アメリカンコッカースパニエル獣人の世界では珍しくありませんが、それでもやはり大家族なので、ママはお料理だけでも大変です。モナがたまにでもお料理を手伝ってくれたなら、ママは大助かりなのです。
包丁は指だってスパスパ切れてしまうくらい危ないので、鮭を切り分けるのはママが担当します。モナは、鮭の切り身に白い粉をまぶす係です。
「ママ、これはなに?」
ママは教えます。この白い粉は小麦粉といって、ムニエルに魚のうまみを閉じこめたまま外側をパリッと焼き上げるためのものなのです。
モナは嬉しそうに、にっこり笑いました。
「おいしくするのね!」
火はお家を燃やしてしまうくらい危ないものなので、鮭の切り身を焼くのはママが担当します。モナは、焼き上がったムニエルにパセリを添える係です。
フライパンに乗せると溶けてしまう白いかたまりを指して、モナは訊ねます。
「ママ、それはなに?」
ママは教えます。この白いかたまりはバターといって、フライパンに鮭の切り身がはりついてしまうのを防ぎながら、ムニエルを風味豊かに仕上げるためのものなのです。
モナは嬉しそうに、にっこり笑いました。
「おいしくするのね!」
時間はとても大切なものなので、あさりを塩水につけて砂を吐き出させるのはモナが学校から帰ってくる前にママが済ませていました。モナはあさりをざるにあげたあと、鍋に移す係です。モナが手間取っている間に、ママは緑色のボトルを取り出しました。
「ママ、それはなに?」
ママは教えます。これはお酒といって、あさりをふっくらやわらかく蒸しあげて大人が好きな芳醇な風味も加えるためのものなのです。
モナは嬉しそうに、にっこり笑いました。
「おいしくするのね!」
ほうれん草のサラダには真っ赤なミニトマトがつきものです。ママは冷蔵庫を探しますが、買ってきたはずのミニトマトがありません。
モナは悲しそうに、しょんぼりうなだれました。
「ママ、ごめんなさい。ミニトマトはおやつに食べてしまったの」
ママは教えます。ミニトマトがなくても、ほうれん草のサラダはおいしく作れるのです。
パントリーから持ってきたホールコーンの缶詰を開けて、切り分けたほうれん草のボウルに空けます。そこへマヨネーズを大さじ2つ分くらい加えて、味が均等になるように和えます。
モナは嬉しそうに、にっこり笑いました。
「よかった! おいしくなるのね!」
ごはんをよそって、献立を食卓に並べます。パパとおじいちゃまがビールで乾杯している真ん中に、モナがあさりの酒蒸しを持っていくと、2人とも喜んでくれました。
仕事から戻ったお姉ちゃん、お兄ちゃんも席について、みんなで手を合わせます。
「いただきまーす!」
ママはモナに訊ねました。お料理はできそうかしら、と。
モナは嬉しそうに、にっこり笑いました。
「おいしくするのって、難しいわ! ママ、いつもおいしく作ってくれてありがとう!」
モナにお手伝いは、まだちょっと難しいかもしれません。でも、ママは嬉しそうに、にっこり笑ったのでした。