魔法使いの交響曲

第3話 夏日

 『……サクラトオル、ヨンサイ……』『ゾウキ……ハレツ……』『……ミャクハクガ……』『センセイ、トオルヲドウカ……!』 いろんな人の声が聞こえる。 いろんな人がぼくの周りを走り回ってる。 遠くで泣いているのは、たぶん、お母さん。 そうだ、ボ...
魔法使いの交響曲

第2話 菫色

 時刻は午後十時。 白い肌に、同じく白い、肩までの長さの髪を編み込んでうなじでまとめた、すみれ色の瞳の美しい少女が、SLWハイスクールの制服を身にまとって、ひとり、暗い夜道を歩いていた。 暗闇でも目立つその姿に、家路を急いでいた会社員の集団...
魔法使いの交響曲

第1話 春眠

 その日、四歳の少年が自宅近くの公園でボール遊びをしていた。 公園の入口に転がっていったボールを、少年は追いかけて、道路に飛び出した。 ボールしか目に入っていなかった少年に向かって、猛スピードでトラックが突っ込んできた。    ❃ ❃ ❃ ...
魔法使いの交響曲

プロローグ 空声

 ー今日も、声が聞こえる。『トオル、そこ、右辺が間違ってる。(a+b)(a-b)=a²-b²だよ』 幼い声に従って、俺はノートに書いた文字を消し、書き直す。 教室に響いているのは数学の教師の掠れた低い声だけで、生徒は真面目に黒板を見ながらシ...