幽霊少女の奏鳴曲

幽霊少女の奏鳴曲

第10話 バケモノ

 聖は十兵衛の身体に異常がないことを確かめると、「はい、ご苦労さん」とあっさり少年を解放した。 十兵衛は服を着替えてから、「わざわざすみません」と頭を下げた。 聖は手をひらひらと振って、「そりゃ構わないんだが」と苦笑する。「お前の保護者は心...
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第9話 ウィルス

  高遠風音は、空港から一歩足を踏み出し、くぐもった空気に顔をしかめた。 それを見ていた義父・李紅元は小さく苦笑する。「空気に慣れませんか?」「……、はい」 つい昨日まで、別件でスイスに滞在していたのである。大気汚染が著しいと言われているイ...
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第8話 プログラム

  一回目は、一年と保たなかった。 生まれて三〇〇日が経過した頃、突然手足が動かなくなった。 その後、目が見えなくなり、言葉を紡ぐ口も役に立たなくなった。 けれど、どういうわけか耳だけは外界の様子を探っており、そこで初めて、アンジュは自分の...
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第7話 フロッピー

  十兵衛は軽い足音を立てて、インド南部の小さな村の、人気のない空き地に降り立つ。 広大なインドの地も、十兵衛の身体ひとつあれば縦断するのに六時間も掛からない。 大きな観光地もないこの村で、明らかに余所者である十兵衛の小奇麗な姿は目立ってい...
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第6話 ハッキング

  同じ部屋にいるのに、パソコン画面とばかり向き合う父親。 娘は父との時間を仕事に奪われたと、密かにむくれていた。 父親のデスクの隣には、それより小さな折りたたみ式のテーブルと、その上にこちらは娘のためのお古のパソコン。 娘は名案を思いつい...
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第5話 レコーダ

  一旦テントに戻った桜は、レコーダに記録された音声を理仁、十兵衛とともに聞き返していた。 『アンジュ、落ち着いてあたしの名前を言ってちょうだい』『1110101101001101001111100101100100001101101111...
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第4話 プレゼント

  彼女は、幼い頃から友人と呼べる人間を作るのが苦手だった。 それは、彼女の思考や行動があまりに大人びていて、同年代や年下の子ども達には理解できず、年嵩の人々には生意気に見えたからかもしれない。 彼女自身、そのことについては諦めていて、一人...
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第3話 パフェ

  団長が使用する宿泊用のテントの中から、少女の怒鳴り声が響く。 事情を関知していない団員たちは、しかしいつものことなので「またか」と呆れたようにそれを聞き流し、夕食の準備を進める手を止めない。 一方、テントの中は、噛み付かんばかりの勢いで...
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第2話 ピーター

  街の大きな公園の一角に立てられたテントに、アンジュは目を輝かせる。「ミーナ! こんな大きなテント、どうやって組み立てるのかなあ? あっちの風船もらってきてもいい? あ、チケット売り場、あっちだって!」「わかったから、ちょっと落ち着きなさ...
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第1話 サーカス

 「パパ、どこに行くの?」 帰宅して間もないにもかかわらず、再び出掛ける準備を始めた父に、娘は訊ねた。 父は視線を一度、娘に向けると、すぐに目を逸らして、「ちょっとな」と答えになっていない返事をした。 娘はますます気になって父に問いかける。...