紅い鬼子の子守唄

紅い鬼子の子守唄

第3話 今夜の宿

 裏切ってしまった。 あのとき、亨はほたるに、助けを求めていた。ほたるはそれを振り払ったのだ。 無慈悲に。身勝手に。彼の「今まで」も「これから」も、一切顧みることなく。(どうして助けなんて求めるの?)(わたしにはどうしようもないのに)(わた...
紅い鬼子の子守唄

第2話 さゆり

 寮生活で使うことなどほぼなくなった定期券機能付きICカードに、数百円足せば実家に戻れるくらいの額が残っていたのは、やはり日頃の行いが抜群に良かったからに違いない。そうとでも思わないとやってられない。 しかしながら電車を乗り継ぐこと二時間と...
紅い鬼子の子守唄

第1話 さりげなく

 まずは、偵察。(さりげなく……) 亨はカフェオレのカップを受け取ると、通りに面したカウンター席に移動し、ひとつ深く息を吸い込んだ。 支部のビルは、大きなウインドウの向こうに視認できる距離。 あの上層階に理仁がいるはずで、ここからであれば千...
紅い鬼子の子守唄

プロローグ 紅い鬼子

 もう一度、会っておけばよかったな。 そんなのはわがままでしかなかったから、あたしは、あたしを誘拐する「魔王」の首に思いっきり手をまわした。 彼の肩越しに初めて見る、あたしのおうちだった場所が遠ざかっていく。――かあさま。 唇だけを震わせた...