ノワとポム

モナズ・キッチン!

 「ママ! ワタシ、お料理をしてみたいわ!」  かわいい末娘のお願いです。ママは喜んで真新しいエプロンを着せて、モナと夕ごはんの支度をすることにしました。 今夜は、鮭のムニエルとほうれん草のサラダ、パパの晩酌用にあさりの酒蒸しも作ります。 ...
魔法使いの雑曲集

亨と護の事故後、入院中の些細な話

  その子は事故に遭ったのだと話してくれた。 白い包帯が痛々しかったけれど、一般病棟に移されたのだから大分安定してきているということだろう。和希(かずき)はすぐに、その子を好きになった。 その子の名前は、トオルくん、といった。  季節の変わ...
StoryTellers

とある語り部の物語

安倍泰明の場合  ある夜、青年が道路の端を歩いていました。 青年は考え込んでいました。どうすれば幸せになれるのか。 今日はアルバイトのあと、新しい原稿を持ち込んできましたが、担当に散々、つまらない、ありきたりだ、驚きがない、そんな指摘をされ...
ノワとポム

  カーテンの隙間から差し込む、お日さまの光が眩しい。鼻腔をくすぐるのは、おいしそうな朝ごはんのにおい。優しい甘さを含んだ香りは、きっとノワお姉ちゃん特製のフレンチトースト。ひまわりの種のバターと蜂蜜をたっぷりかけて頬張ったら、きっと、とっ...
紅い鬼子の子守唄

第3話 今夜の宿

 裏切ってしまった。 あのとき、亨はほたるに、助けを求めていた。ほたるはそれを振り払ったのだ。 無慈悲に。身勝手に。彼の「今まで」も「これから」も、一切顧みることなく。(どうして助けなんて求めるの?)(わたしにはどうしようもないのに)(わた...
紅い鬼子の子守唄

第2話 さゆり

 寮生活で使うことなどほぼなくなった定期券機能付きICカードに、数百円足せば実家に戻れるくらいの額が残っていたのは、やはり日頃の行いが抜群に良かったからに違いない。そうとでも思わないとやってられない。 しかしながら電車を乗り継ぐこと二時間と...
紅い鬼子の子守唄

第1話 さりげなく

 まずは、偵察。(さりげなく……) 亨はカフェオレのカップを受け取ると、通りに面したカウンター席に移動し、ひとつ深く息を吸い込んだ。 支部のビルは、大きなウインドウの向こうに視認できる距離。 あの上層階に理仁がいるはずで、ここからであれば千...
紅い鬼子の子守唄

プロローグ 紅い鬼子

 もう一度、会っておけばよかったな。 そんなのはわがままでしかなかったから、あたしは、あたしを誘拐する「魔王」の首に思いっきり手をまわした。 彼の肩越しに初めて見る、あたしのおうちだった場所が遠ざかっていく。――かあさま。 唇だけを震わせた...
木偶人形の茶番劇

エピローグ 見過ごせなくて

 ……かわいそう。 これまでの十五年で積み上げてきたものを、残虐な魔王の指の一振りで、砂のお城が波にさらわれるようにあっけなく失うなんて。 高遠風音は、亨の意識を追いながら、他人事にしては妙な緊迫感をもって、けれどやはり他人事なのでわりと冷...
木偶人形の茶番劇

第13話 かくして喪失は齎された

 ほたると別れたあと、寮の部屋に戻った亨は夕食もそこそこに部屋にこもり、千里眼を開いた。 対象はもちろん桜。その意識を追いかけようとするが、距離が離れているためか、なにかに阻まれているのか、意識を辿ることができない。「……ていうか、そもそも...