木偶人形の茶番劇

第2話 白い悪魔の狂想曲

 四条理仁は、ノアの箱舟という異能者集団と行動をともにしていた。ノアの箱舟は社会に溶け込むことのできなかった異能者たちの集まりで、メンバーの中にはSLWにより危険人物と認定されている者もいる。そうでないメンバーも、異能者を隔離し兵士に育て上...
木偶人形の茶番劇

第1話 コーヒーに映るのは

  すぐ隣で震える、歳上の、初めてのお友達を庇うために前に出た。けれどそれは、友情だなんて純粋で綺麗なものではなく、あの人に『理想のわたし』を見て欲しいという、なんとも自分本位でつまらない、見栄っぱりな理由からだった。 あの人にわたしを見て...
木偶人形の茶番劇

プロローグ 喪失は一夜のうちに

 みんな、俺を知らないと言う。 山本も、村上も、怪訝な目をして俺を見ている。 美鈴も、エデンも、……たった一人を除いて、俺はクラスの誰の中にも居なくなっていた。「小野さん」 だから、助けを求めた。 俺から目を逸らしている彼女に。 いつだって...
魔法使いの雑曲集

或る天才の大晦日の独白

  正月になると思い出す。 弟分と初めて真剣に向き合った、あの年の最後の日を。  一体どうしてこうなった。 松原聖は自分のテントで泣きべそをかいている、最近できたばかりの義弟に手を焼いていた。「……だーかーら、桜だって悪気があったわけじゃね...
魔法使いの雑曲集

魔法使いによる四重奏

  仮にどんな出会い方をしたとしても、決して分かり合えないであろう奴というのは、哀しいことに恐らく、誰にでもいる。育った環境が違う別の個体なのだから致し方ない。少し歩み寄ってみて、ああ、此奴とは分かり合えない、そう感じたら双方のためになるべ...
魔法使いの雑曲集

魔王陛下の食卓の音楽

 第一章  室町友恵は、今月の健康診断結果からある一名のデータを取り出し、それを確認して、はぁ、と深いため息をついた。「これは、なんとかしなければならないわねぇ……」    ❃❃❃❃❃❃❃❃  ある日の昼。表向きは移動興行集団、その実態は諸...
忘却のニュンフェの正歌劇

エピローグ お別れ

 ほたるに潜ませておいた分身が発動した。 いつかはこうなるとわかっていたから、きっと冷静に受け止められると思っていたけれど、そんなのは無理な話だった。理仁はかつて覚えがないくらい動揺していた。 拘束されるのは構わない。ただ、ずっと続くと思っ...
忘却のニュンフェの正歌劇

第17話 春の嵐

 ひょっとしなくても、自分が複数の敵を相手取るなんて無謀な判断だったのではないか。常時携帯している血液製剤をぐしゃりと奥歯で噛み潰したら、もちろん味の考慮なんてされていない錠剤の吐き捨てたいくらいの苦みで口の中がいっぱいになる。 急いで血液...
忘却のニュンフェの正歌劇

第16話 誰でもいいから

 劈くような破裂音とともにエデンは走る。 足元は悪いが大した問題ではなくて、それよりもずっと拘束されていたほたるの方がよっぽど苦しかったに違いなかった。距離を詰めても古賀はまだ身体を再構成するには至っておらず、弾き飛ばされたほたるを抱えて距...
忘却のニュンフェの正歌劇

第15話 糸電話

 さて、背後には神妙な面持ちのエデン、前方にはほたるを抱えて逃走しようとする古賀がいるわけであるが。(マモル、またいきなり出てきて……)『だってー!』(せめて前置きしてくれよ。言いたいこと言ったらすぐ俺に丸投げなんだから)『それはゴメンだけ...