木偶人形の茶番劇

第12話 すべては愛するあなたのために

 「……行っちゃったね」『まあ長居は無用だもんね』 十兵衛は亨たちを非常口まで送り届けた後、置いてきてしまった理仁を気にしてか、挨拶もそこそこに飛び去った。 それを見送った亨と、俯いたままのほたるが残る非常階段。沈黙の妖精ですらあまりの気ま...
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第11話 母の記憶

 人でなし、と言われた。 忘れそうになっていた、かつての苦悩。やはり自分は人ではないのかもしれない。そんな苦しみを、いつしか気にも留めなくなっていた。忘れてはならない罪の意識が薄れていたのだろうか。 四条理仁は、籍上の名を能美廣光という。 ...
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第10話 願いを叶えて、お人形さん

  贈り主の願いを、相手に届けるキューピッド。 手にした相手はどんな願いでも叶えてくれる。 明日、告白してほしい、とか。 雨の日に、ぎゅっと手を握っていてほしい、とか。 もちろん、今夜は身体中に触れてほしい、とかもアリ。 ね? 幸せを運ぶお...
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第9話 人でなしたちの恋心

 春の初めにハイスクールへ転入して、早半年。 季節は秋。一ヶ月後には文化祭が開催される、そんな時期。 SLWハイスクールにも文化祭というものはある、らしい。村上によれば、エレメンタリーからハイスクールまでの計十二学年総出で開催される。もちろ...
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第8話 出立前夜の突破劇

 妙なテンションの聖と興奮気味のアンジュの説明を要約するに、「個人的に進めていたSLWネットワークへの侵入が成功した」ということらしい。万能の天才と電脳精霊がタッグを組んだ犯罪史に残るファイアーウォール突破劇の恐ろしさを十兵衛少年は理解して...
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第7話 非凡の蛇は紫煙の溜め息を吐く

 たかだか二十年の人生のうち十年以上を共に過ごした義妹は、たとえ何処へ行こうと聖にとって大切な家族であり仲間であり友人であり、そんな彼女に頼って貰えたなら多少の無茶くらい請け負う心積りはあったのだ。だというのに、箱舟に残ると言い出した桜は頑...
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第6話 嫉妬は何色の目をした怪物か

 暦の上では秋とはいえ、真昼の厳しい日差しは年頃の少女たちにとって大敵であり。 紫外線を避けて選んだベンチは、本来は三人の憩いの場だった。 ……数日前まで、は。「ほんっとに信じられないんだけど!」 ベンチにふんぞり返りながら、普段は通り過ぎ...
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第5話 レディ・ハートという女

 四条理仁がSLWへ収監された。当面の間、拘束される場所は日本支部内の研究施設の一室というし、小間使いも付いているというからまるで客人の扱いだ。しかし今後はSLWの厳重な監視下に置かれ、施設間の移送を除き外界に出ることはない取り決めであるか...
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第4話 港町にて待ち合わせ

 場所はレンガ造りの倉庫前、時刻は正午を少し過ぎた頃。 SLWの権限で人払いしたらしく、観光客で賑わう普段とは打って変わり、周辺に人影はなく、しかし緊張に包まれていた。 末端の捜査員には、「とある事件の重要参考人」としか伝えられていないとい...
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第3話 商談は突然に

 高遠風音はその幼さの残る整った眉をひそめ、養父へ問い返した。「私を日本へ?」 無論、不服などあるはずがない。義父であり首領でもある李の命とあらば硝煙と血の臭いしかない戦場にだって赴こう。ただ、先の失態を鑑みれば、自分があの故郷というべき地...