幽霊少女の奏鳴曲

第4話 プレゼント

  彼女は、幼い頃から友人と呼べる人間を作るのが苦手だった。 それは、彼女の思考や行動があまりに大人びていて、同年代や年下の子ども達には理解できず、年嵩の人々には生意気に見えたからかもしれない。 彼女自身、そのことについては諦めていて、一人...
幽霊少女の奏鳴曲

第3話 パフェ

  団長が使用する宿泊用のテントの中から、少女の怒鳴り声が響く。 事情を関知していない団員たちは、しかしいつものことなので「またか」と呆れたようにそれを聞き流し、夕食の準備を進める手を止めない。 一方、テントの中は、噛み付かんばかりの勢いで...
幽霊少女の奏鳴曲

第2話 ピーター

  街の大きな公園の一角に立てられたテントに、アンジュは目を輝かせる。「ミーナ! こんな大きなテント、どうやって組み立てるのかなあ? あっちの風船もらってきてもいい? あ、チケット売り場、あっちだって!」「わかったから、ちょっと落ち着きなさ...
幽霊少女の奏鳴曲

第1話 サーカス

 「パパ、どこに行くの?」 帰宅して間もないにもかかわらず、再び出掛ける準備を始めた父に、娘は訊ねた。 父は視線を一度、娘に向けると、すぐに目を逸らして、「ちょっとな」と答えになっていない返事をした。 娘はますます気になって父に問いかける。...
幽霊少女の奏鳴曲

プロローグ D.C.

   ――今日も、あの日の繰り返し。  そう思って諦めていた。 目を閉じる直前、彼が目の前に現れるまでは。 「また繰り返すのか?」  黒衣の魔王は、厳かに訊ねる。 閉ざされようとする目をはっと開く。 彼はもう一度訊ねた。 「来年も、また、同...
魔法使いの交響曲

エピローグ 緋色

 そっと受話器を降ろして、ほうと息を吐く。 そうしてすぐに頭を切り替えて、透明な扉を押し開く。 とある大学の前の電話ボックスから出てきたのは、腰まで届く髪を背中に流した、金色の瞳の、背の高い青年。暑くなり始めたにもかかわらず、質の良い黒のコ...
魔法使いの交響曲

第17話 希望

 部活の他の友人たちはすでに集まっていた。残る一名とは連絡がつかないままである。 スマートフォンに何度連絡を入れても、「現在電波が届かないところにいるか、電源を切っているため、かかりません」の一点張り。メールの返信もなし。「……風音、どうし...
魔法使いの交響曲

第16話 勇気

「ナマエってなあに?」 亨の問いかけに、見えない友人は不思議そうに問い返した。 亨は少し考えて、「君は人からなんて呼ばれているの?」ともう一度訊ねた。「君」「それは名前じゃないよ。もしかして、名前がないの……?」 うーん、そうなのかなあ、と...
魔法使いの交響曲

第15話 死神

 白い死神のような男の攻撃を躱しながら、美雪は自分の攻撃が当たらないことに焦っていた。 全方向からの攻撃は功を奏さず、あっさりと受け止められた。 それに対応して美雪はすぐに頭を切り替え、自分の血から煉り固めた螺子に、新しく四つの命令を下して...
魔法使いの交響曲

第14話 未練

 十六年前。長谷川邦彦は、SLWが発足する少し前から、当時は異能者研究の聖地と言われた、ドイツの片田舎のとある研究室に留学していた。 彼の指導者として指名されたのは、サリヴァン博士を始めとして変わり者と評される人間が多かった研究室内でも、特...