魔法使いの交響曲シリーズ

魔法使いの雑曲集

亨と護の事故後、入院中の些細な話

  その子は事故に遭ったのだと話してくれた。 白い包帯が痛々しかったけれど、一般病棟に移されたのだから大分安定してきているということだろう。和希(かずき)はすぐに、その子を好きになった。 その子の名前は、トオルくん、といった。  季節の変わ...
紅い鬼子の子守唄

第3話 今夜の宿

 裏切ってしまった。 あのとき、亨はほたるに、助けを求めていた。ほたるはそれを振り払ったのだ。 無慈悲に。身勝手に。彼の「今まで」も「これから」も、一切顧みることなく。(どうして助けなんて求めるの?)(わたしにはどうしようもないのに)(わた...
紅い鬼子の子守唄

第2話 さゆり

 寮生活で使うことなどほぼなくなった定期券機能付きICカードに、数百円足せば実家に戻れるくらいの額が残っていたのは、やはり日頃の行いが抜群に良かったからに違いない。そうとでも思わないとやってられない。 しかしながら電車を乗り継ぐこと二時間と...
紅い鬼子の子守唄

第1話 さりげなく

 まずは、偵察。(さりげなく……) 亨はカフェオレのカップを受け取ると、通りに面したカウンター席に移動し、ひとつ深く息を吸い込んだ。 支部のビルは、大きなウインドウの向こうに視認できる距離。 あの上層階に理仁がいるはずで、ここからであれば千...
紅い鬼子の子守唄

プロローグ 紅い鬼子

 もう一度、会っておけばよかったな。 そんなのはわがままでしかなかったから、あたしは、あたしを誘拐する「魔王」の首に思いっきり手をまわした。 彼の肩越しに初めて見る、あたしのおうちだった場所が遠ざかっていく。――かあさま。 唇だけを震わせた...
木偶人形の茶番劇

エピローグ 見過ごせなくて

 ……かわいそう。 これまでの十五年で積み上げてきたものを、残虐な魔王の指の一振りで、砂のお城が波にさらわれるようにあっけなく失うなんて。 高遠風音は、亨の意識を追いながら、他人事にしては妙な緊迫感をもって、けれどやはり他人事なのでわりと冷...
木偶人形の茶番劇

第13話 かくして喪失は齎された

 ほたると別れたあと、寮の部屋に戻った亨は夕食もそこそこに部屋にこもり、千里眼を開いた。 対象はもちろん桜。その意識を追いかけようとするが、距離が離れているためか、なにかに阻まれているのか、意識を辿ることができない。「……ていうか、そもそも...
木偶人形の茶番劇

第12話 すべては愛するあなたのために

 「……行っちゃったね」『まあ長居は無用だもんね』 十兵衛は亨たちを非常口まで送り届けた後、置いてきてしまった理仁を気にしてか、挨拶もそこそこに飛び去った。 それを見送った亨と、俯いたままのほたるが残る非常階段。沈黙の妖精ですらあまりの気ま...
木偶人形の茶番劇

第11話 母の記憶

 人でなし、と言われた。 忘れそうになっていた、かつての苦悩。やはり自分は人ではないのかもしれない。そんな苦しみを、いつしか気にも留めなくなっていた。忘れてはならない罪の意識が薄れていたのだろうか。 四条理仁は、籍上の名を能美廣光という。 ...
木偶人形の茶番劇

第10話 願いを叶えて、お人形さん

  贈り主の願いを、相手に届けるキューピッド。 手にした相手はどんな願いでも叶えてくれる。 明日、告白してほしい、とか。 雨の日に、ぎゅっと手を握っていてほしい、とか。 もちろん、今夜は身体中に触れてほしい、とかもアリ。 ね? 幸せを運ぶお...