魔法使いの交響曲シリーズ

魔法使いの雑曲集

或る天才の大晦日の独白

  正月になると思い出す。 弟分と初めて真剣に向き合った、あの年の最後の日を。  一体どうしてこうなった。 松原聖は自分のテントで泣きべそをかいている、最近できたばかりの義弟に手を焼いていた。「……だーかーら、桜だって悪気があったわけじゃね...
魔法使いの雑曲集

魔法使いによる四重奏

  仮にどんな出会い方をしたとしても、決して分かり合えないであろう奴というのは、哀しいことに恐らく、誰にでもいる。育った環境が違う別の個体なのだから致し方ない。少し歩み寄ってみて、ああ、此奴とは分かり合えない、そう感じたら双方のためになるべ...
魔法使いの雑曲集

魔王陛下の食卓の音楽

 第一章  室町友恵は、今月の健康診断結果からある一名のデータを取り出し、それを確認して、はぁ、と深いため息をついた。「これは、なんとかしなければならないわねぇ……」    ❃❃❃❃❃❃❃❃  ある日の昼。表向きは移動興行集団、その実態は諸...
忘却のニュンフェの正歌劇

エピローグ お別れ

 ほたるに潜ませておいた分身が発動した。 いつかはこうなるとわかっていたから、きっと冷静に受け止められると思っていたけれど、そんなのは無理な話だった。理仁はかつて覚えがないくらい動揺していた。 拘束されるのは構わない。ただ、ずっと続くと思っ...
忘却のニュンフェの正歌劇

第17話 春の嵐

 ひょっとしなくても、自分が複数の敵を相手取るなんて無謀な判断だったのではないか。常時携帯している血液製剤をぐしゃりと奥歯で噛み潰したら、もちろん味の考慮なんてされていない錠剤の吐き捨てたいくらいの苦みで口の中がいっぱいになる。 急いで血液...
忘却のニュンフェの正歌劇

第16話 誰でもいいから

 劈くような破裂音とともにエデンは走る。 足元は悪いが大した問題ではなくて、それよりもずっと拘束されていたほたるの方がよっぽど苦しかったに違いなかった。距離を詰めても古賀はまだ身体を再構成するには至っておらず、弾き飛ばされたほたるを抱えて距...
忘却のニュンフェの正歌劇

第15話 糸電話

 さて、背後には神妙な面持ちのエデン、前方にはほたるを抱えて逃走しようとする古賀がいるわけであるが。(マモル、またいきなり出てきて……)『だってー!』(せめて前置きしてくれよ。言いたいこと言ったらすぐ俺に丸投げなんだから)『それはゴメンだけ...
忘却のニュンフェの正歌劇

第13話 自然美観保護地区

(あれ、なんだろう、この…… 懐かしい匂い……) 薄く目を開ける。そこに飛び込んできたのは、 薄汚れたスニーカー。「うぉぉぉぉぉお⁉」「よし、起きた」「山本、おはよ」 スニーカーの向こうには亨と陽一。村上の方は六人分のリュックサックを抱えて...
忘却のニュンフェの正歌劇

第12話 本日入山禁止

 亨の視界にどこかで見た粘性の縄が映ったのと同時に、頭の中の相棒が『トオル!』と鋭く叫んだ。それに答える前に体が動く。 突然走るスピードを早めた亨に驚きながらも、美鈴もすぐに追いついて「なにかあった?」と短く訊ねる。亨はエデンの視界と木の根...
忘却のニュンフェの正歌劇

第11話 拘束

 ほたるとともに行った山本平蔵が嗅覚強化の異能者であることは、あまりクラスメイトと関わることのない美鈴もどこかで聞いて知っていた。エレメンタリー入学時から同じクラスなのだから、それぞれの異能がどんなものかなんて本人に聞かなくてもいずれ知れ渡...