忘却のニュンフェの正歌劇

第13話 自然美観保護地区

(あれ、なんだろう、この…… 懐かしい匂い……) 薄く目を開ける。そこに飛び込んできたのは、 薄汚れたスニーカー。「うぉぉぉぉぉお⁉」「よし、起きた」「山本、おはよ」 スニーカーの向こうには亨と陽一。村上の方は六人分のリュックサックを抱えて...
忘却のニュンフェの正歌劇

第12話 本日入山禁止

 亨の視界にどこかで見た粘性の縄が映ったのと同時に、頭の中の相棒が『トオル!』と鋭く叫んだ。それに答える前に体が動く。 突然走るスピードを早めた亨に驚きながらも、美鈴もすぐに追いついて「なにかあった?」と短く訊ねる。亨はエデンの視界と木の根...
忘却のニュンフェの正歌劇

第11話 拘束

 ほたるとともに行った山本平蔵が嗅覚強化の異能者であることは、あまりクラスメイトと関わることのない美鈴もどこかで聞いて知っていた。エレメンタリー入学時から同じクラスなのだから、それぞれの異能がどんなものかなんて本人に聞かなくてもいずれ知れ渡...
忘却のニュンフェの正歌劇

第10話 居場所

 山と言っても県境をまたぐわけではなく、都心から少し離れた地域の憩いの場で、亨も中学までに何度か母や妹と遊びに来た場所だった。けれど、小学校入学から寮で暮らしてきたほたるは名前しか知らないと言った。だから、亨に案内できてほたるたちにも楽しめ...
忘却のニュンフェの正歌劇

第9話 中央線

 中央線に揺られること早三〇分、つまりはほたるの「隙間時間で暗記タイム」はスタートから三〇分が経過していた。単語帳の二五〇番から三〇〇番までが今回の目標だったが、亨は例文にちょくちょく登場するジェシカとヘンリーとアンの三角関係の方が気になっ...
忘却のニュンフェの正歌劇

第8話 金糸雀

 金髪碧眼の仏頂面が、自分より頭二つほど背丈の高い隊服たちに構うことなくずんずんと廊下の真ん中を歩いていれば、それはそれなりに目立つわけで。『一番隊の金糸雀がなにやら御機嫌斜めらしい』という噂は、どこをどう伝わっていったのか知らないが、不機...
忘却のニュンフェの正歌劇

第7話 SOS

 ほたるは、素っ気ない風に見えるけど、親切だし、裏表がない。 美鈴は、意外と芯の強い性格で、根っからのお人好し。 このふたりが他人の悪口とか言ってるところなんて、見たこともないし、想像もできない。ふたりとも、悪意とは無縁な気がする。 こんな...
忘却のニュンフェの正歌劇

第6話 再現

 SLWハイスクールには『異能実技』という科目がある。 異能実技は異能に合わせた個別指導。生徒と類似した異能を持つ捜査隊員と二人一組になって、個々の異能の扱い方を学ぶ。 同時刻に各々別の場所で行われるのだから、当然、他のクラスメートの実技指...
忘却のニュンフェの正歌劇

第5話 アイツ

 昼。食堂の真ん中のテーブルにて。 SLWハイスクール一年一組、出席番号四二番。山本平蔵はにこにこと憎めない笑顔を浮かべる友人に、どう切り出すべきか迷っていた。隣でハムカツをつついていた、出席番号三八番、村上陽一もおそらく同じ心境であったろ...
忘却のニュンフェの正歌劇

第4話 ナンパ男

 佐倉亨の朝は早い。生活リズムが極端に整っている白髪の少女に合わせること五ヶ月。季節が移ろい布団から抜け出すのが苦でなくなったのもあるかもしれない、今日もいつもと同じ、五時少し過ぎに目が覚めた。ベッドから天井を見上げつつ、ずいぶん長く彼女と...